為末大(ためすえだい)氏
世界大会において、トラック種目で日本人初となる2つのメダルを獲得し、3大会連続オリンピックに出場した陸上選手である為末大さんにお話を伺いました。
競技外でも、2006年全国の小学校を訪問し、陸上の普及を目的とした「キッズアスリート・プロジェクト」への参加や
2007年東京・丸の内の公道を封鎖し、陸上のPRを図った「東京ストリート陸上」実現などで活躍されていらっしゃいます。
「がんばれる種」は、スポーツで創ることができます。
よく言われることですが、頭と身体は密接につながっています。頭だけで考えるのではなく、身体を使うことで総合的に知能が発達するのではないかと僕は考えています。特に幼少期は自分の身体を使っていろいろなものを触って体験していくことが大切ではないかと。統計を取った訳ではなく僕の主観なのですが、子どもの頃にこの川って飛べるかなとか、コレできるかなと予測して身体を動かす、ここまでならできるけど、これはどうなんだろうとチャレンジしていく。そして自分に出来る範囲を確かめていく。そんな体感体験が大人になってからの決定力や判断力につながり、目標設定できる力を作るのだと思います。
僕は陸上選手ですから、人生はある程度1人で切り開いていくものだと考えています。もちろん助け合ってはいきますが、自立した大人になるためには、自分ができる範囲を理解して、リスクにどんどんチャレンジしていくことが必要なのです。もちろん失敗したりとかの痛みはありますが、それでもチャレンジの機会を作ることが大切です。そして目標達成が出来るようになるためにも、子どもの頃から身体を動かすことが大切だと考えています。そしてなにより大切なのは好奇心です。どこまで出来るかなと思うその想いですね。外からがんばらせるよりも、子どもが自分から「楽しいな、できるかな」と思ってやってみる。それが一番大切。テクニックなんて後まわしでいいんです。
すべての子育てあるいは人育てに通じると思うのですが、そうやってがんばっていると、「がんばれる種」が作れるんです。この「がんばれる種」を作れると人生で成功できると僕は考えています。自分で目標を決めてがんばって、そんな自分を褒めてあげる、いわゆる自己生成のサイクルですね。努力と報酬の繰り返しです。努力した子どもを大人がほめる。これが何より大切。ただ褒めるということとは違います。例えば背が高いのは個人の努力ではない。できなかったことを出来るようになろうとして子どもが努力する。たとえ最終的にできなくても、子どもががんばっているそのプロセルを、チャレンジした姿勢を大人が褒める。そうすると子ども達の中に「がんばれる種」が育っていきます。そしてその種は、一流のアスリートすべてに共通するものでもあります。言うならば「核」のようなものですね。
スポーツの世界では、最後は個人のモチベーションがモノを言います。その最後の瞬間に自分を律することの出来る選手だけが残るのです。大人に言われてやっていた選手は最後は必ずダメになっていきますね。最初はごちゃまぜですが、最後の最後は夢を持って自分の力でがんばった選手だけが残ります。最後のせめぎ合いの瞬間に、その力が発揮されるんです。そこまでしてやりたい何かがあるかどうかが大切で、僕は目標を作って自分でそれに向かっていくことで、人生が進んで行くのではないかと思っています。そして成功してもしなくても、努力した自分を自分で褒めてあげる。そんな人生を生きるコツを子どもの頃につかむことが大切なのです。
そんな種を作ることは、大人になってからでは難しいし、それで苦しんでいる大人を僕はいっぱい知っています。種を作るのにスポーツはとてもいいですね。他者との比較ではなく、自分で一生懸命にやって、それまで出来なかった自分と出来た自分を比較できますから。そしてそうやってできた「本物の自信」は、スポーツだけではなく人生でも力になります。スポーツ選手でも本物の自信を持っていないために、引退して別な社会に出たとたんに対応できなくて崩れて行く人は大勢いますから。
キッズキャンプは種を育てるためにはとてもいいチャンスだと思います。プロが指導してくれますし、なにより子ども達にとって共同生活をするというのが大きいのではないでしょうか。知らない人と一緒にすごし、距離をはかることやコミュニケーションの方法を学ぶすばらしい機会です。他者と過ごすことで、自分が見えてきます。そして「自分にはできる!」という自信も生まれてきます。競技力の向上だけでなく、自分との競争ができるというのがとてもいいですね。
「自分に自信を持つこと」はとても重要です。自分にはできる! 自分は困難に立ち向かえる! と思えることが大切なのです。それこそをこのキャンプでつかんで欲しいですね。それはスポーツの世界だけではなくて、人生においても有効ですから。まずは困難に立ち向かうその力を、種をつかんで欲しい。そして同時に自分の身体を動かすことの楽しさも、ぜひ知って欲しいですね。